目次 1.事業承継とはなにか 2.事業承継が注目される社会背景 3.事業承継の3つの選択肢 4.事業承継の流れと準備ステップ 5.後継者を「選ぶ」「育てる」 6.経営者の「想い」と「見えない資産」をどう引き継ぐか 7.事業承継のリスク 8.まずどうすればいいのか1.事業承継とはなにか 事業承継とは、会社の経営権や資産だけでなく「創業者の想い」や「固有の伝統」を次の世代にバトンタッチすることを指します。単に「社長の椅子」を譲るだけでなく、以下の視点が必要です。経営の引継:後継者が会社を運営できるように、知識やノウハウを伝えること株式や資産の引継:自社株式、不動産、借入金の整理が重要なポイント社員や取引先との関係:主要な社員や取引先が離反しない納得いく説明 多くのケースで承継には3-5年の時間を要します。焦る必要はありませんが着実に検討を進めることが必要です。2.事業承継が注目される社会背景 大企業、中小企業を問わず社長交代は起こりえます。日本企業の99%以上が中小企業といわれる中で、選択肢の少なさという観点から、中小企業のほうが次の社長候補を内部で見つけることが難しいです。 さらに、経営者の高齢化が進んでおり、60歳以上の経営者が6割を超えています。経営者の体調不良や引退によって、黒字なのに廃業するという不幸を起さないためにも段取りを踏まえた事業承継の検討が必要です。実際に、日本政策金融公庫などの調査によれば、60歳以上の経営者のうち過半数以上が将来的に廃業を検討しており、その約3割が“後継者難”を理由としているという報告もあります。 早晩、「事業承継の準備を確実に行っている会社」が、取引先や金融機関から評価されるという時代の流れになっていくのかもしれません。3.事業承継の3つの選択肢 ①親族への承継 もっともイメージしやすいのが息子や娘に継がせるケースです。会社の理念は伝わりやすく周囲の理解が得やすいですが、後継者の適性や納得感が大事になってきます。後継者が孤立するケースが多いのはこのパターンです。 ②社内への承継(役員、従業員など) 信頼できる幹部社員に継がせる方法もよく採られます。会社の実情を理解しており、取引先からの理解も得られやすいです。株式の取得など資金面でのハードルや、経営者となる責任を引き受けられるかがポイントです。私がサポートしたい事業承継は、この①と②のパターンです。 ③第三者への承継(M&A等) 買い手となる企業は、同業他社や同地域の異業種企業が多いです。また、中小企業庁の調査では、後継者が未定/不在である企業のうち、約70%が黒字経営であるという事実があります。黒字だからと言って後継者に恵まれるとは限らない。ただし、M&Aを含めた外部候補が見つかりやすいのはメリットです。以上、3つの選択肢を説明しましたが、どの選択肢も天から降ってきてすぐに処理が終わりものではないことは強調できます。どの承継方法が最適か、早い段階から慎重に考えを纏めていくことが必要です。4.事業承継の流れと準備ステップ一般的な事業承継の流れと進め方を以下に纏めます。私が提供するコンサルティングにおいても一連の作業を一緒に進めていくことを想定しています。STEP1 現状の把握と課題の洗い出し 継承時期、後継者候補、会社の財務/収益/資産の状況、営業基盤、運営体制STEP2 承継の基本方針を策定 誰にどのように引き継いでいくのか。第三者による候補者インタビューも効果がありますSTEP3 後継者の育成と権限移譲 社内主要会議への同席、外部研修への参加、経営の役割分担STEP4 社内外への通知と大胆な交代 新経営者の方針説明、取引先への告知、旧経営者のフルサポートを約束中小企業間においては、「○○さんだから安心して取引していた」という信頼関係に基づく取引が多くあります。だからこそ、継承の正当性を時間を掛けて納得してもらうことがとても重要であり、それには準備や段取りが必要です。 5.後継者を「選ぶ」「育てる」事業承継において最も大事なことは、誰に会社経営を託すか?という後継者選びです。そして単に選べばいいというものではなく、会社の未来を誰に委ねるかを決める重大な経営判断です。多くの中小企業にとっては、選ぶほど余裕がないのが現実だと思います。つまり最適と思われる人を経営者に仕上げていく作業が必要で、簡単なことではありません。結論を言えば、後継者に意志と覚悟があるかを見極めることが大事です。人望がある・誠実であることは大切ですが、それだけでは経営できません。「経営の感覚」や「数字を見る能力」「寝技も含めた問題解決力」が備わっているか、或いは成長を期待できるかを判断基準にしましょう。また優秀な人物であっても、社員や取引先から信頼される人物か、高所からの物言いや立ち居振る舞いが変わらないようであれば、周囲に受け入れてもらえる可能性は低いです。育て方に正解はありません。先代経営者とじっくり胸襟を開いて話すこと、財務や経理・人事などの必要な知識を身に付けること、取引先への同行、失敗の経験、社外からの刺激を受けながら仲間を見つけられる場への参加など、時間をかけて経験と信頼を積み上げていく必要があります。そして、先代経営者が後継者にしっかりと「任せる」こと、任せることを内外に見せることが必要です。信じて任せる勇気と、見守る覚悟が承継の始まりです。6.経営者の「想い」と「見えない資産」を引き継ぐ決算書からは見えない会社の本質的な価値こそが大事だという話は前回のコラムでも書きました。https://yamatoaogaki.jp/column/ajB2nhSG業績は順調でも「会社が変わってしまった」と社員が離れたり、「新社長とはやりづらい」と大事な取引先との関係が崩れてしまったり、こうした問題の多くは、「見えない資産」の承継ができなかったことが原因です。特に創業者からの承継の場合、「言葉にしなくても伝わるだろう」と思いがちです。ただ想像以上に、「見えない資産」は伝わりづらいです。それを伝えるためには、恥ずかしがらずに1対1で定期的に話す場を持つ、経営理念や創業の思いを文章にまとめる、重要な意思決定の際の基準や判断軸を書き残す などが重要になります。私が提供する半年間のコンサルティングでも、この会社固有の伝統を「言語化する」「見える化」することによって、大事な見えない資産を棚卸することを一番大事にしています。7.事業承継のリスクどんなに準備を尽くしても、後悔の残る承継になってしまうケースが少なくありません。代表的なものを以下に3つ挙げます。「まだ元気だから」と後回しにしていた結果、突然の病気などで引退を余儀なくされて、後継者が決まっておらず事業継続ができなくなることがあります。まだ元気だからこそ、準備を行い実際に承継作業を始めることが肝要です。指名した後継者にバトンを渡したものの、その後継者が事業をうまく回すことができず、孤独やプレッシャーもあって体調を崩してしまうことがあります。社員や取引先が旧社長を頼り続けることにより発生する「二重経営状態」も混乱する要因です。前項の「見えない資産」を承継されないまま進んでいくと、暖かかった社内の雰囲気や、強固だった取引関係が崩れて、一気に業績が悪化することがあります。会社固有の財産を後継者も従業員も意識し、価値観を共有することがなにより大事です。こうした失敗を防ぐためにも、慎重に、客観的な視点をいれて承継することが大事です。8.まずどうすればいいのか少し違う話から始めます。私は「作業興奮」という考え方が好きです。やる気が湧かないから動き始められないということはよくありますが、先に動いてしまえばあとからやる気がついてくるという考え方です。いつの間にかその作業に没頭して、気付けば新しいやり方や創意工夫を試している。成果をあげるためには、やる気が起こるのを待つのではなく、まず動き始めてみることだということと理解しています。事業承継も、どれくらい労力と時間とコストがかかるのか想定することが難しいので、つい始められず放置してしまうことが多い領域です。その中で、まず動き始めることとは「第三者に相談する」ことではないかと思います。自治体や商工会議所、地域金融機関なども支援スキームを持っていますが、定型フォーマットで進めていかざるを得ないので、これでいいという実感が伴わずに進むことも多いと聞きます。私はまず、創業者の方、あるいは承継された二代目経営者の方からじっくりお話をお聞きします。フォーマットに記入するのは後でいいです。培われてきた事業経験を踏まえた、「心の奥からの想い」をまず吐露してもらって可能な限り言語化します。自分の顔を客観的に見るには鏡が必要です。同じように想いを客観的に確認するには、第三者に相談することから始めることをお勧めします。長い文章にもかかわらず、ここまで読んでいただきありがとうございました。皆さんの事業承継がうまくいくことを祈念します。